天満つる明けの明星を君に【完】

家に戻るなりすぐ晴明宛てに文を出した。

一包あの得体の知れない薬を包んで、開封する時は注意をしてほしいと心配性ならではの注意書きをして、腕を組んで考えた。


雛菊が漏らした言葉――駿河が雛菊の父を殺したかもしれないという推測…

今までふたりを観察してきた天満は、駿河が雛菊に寄せる妄執にも似た想いに気付いていたものの、雛菊を深く愛しているからだろうと思っていたのだが――

もし雛菊の父がふたりが夫婦になることを反対していたとしたら…あの柔和にも見えるが切れやすい男は、自らの手でもって雛菊の父を殺めたのかもしれない。


それがあの薬だった場合――父を失って悲しむ雛菊の付け入って取り入って、夫婦になったということ。


「…可能性としては有り得る。いや、むしろそれしかないかもしれない」


病で死んだと言っていたが、妖が病で死ぬことはほとんどない。

あの屈強な雛菊の父が病に罹るなど有り得ない気がするのだが…そうなるともう、駿河は真っ黒すぎる。


「天満様…」


「雛ちゃん、寝てた方がいいよ。また熱が出たんだからゆっくりしてて」


家に戻ってすぐ雛菊はぐったりしてしまい、高熱が出たため寝かしつけた後、持ち帰った人体の一部を庭で荼毘に付した。


天満の部屋にやって来た雛菊はまだつらそうな顔をしていたが、ひとりで居るのは心細いのか、寄り添うようにして座ってもたれ掛かってきた。


「…つらいものを見ちゃったね」


「うん…。旦那様が頻繁に外出してて…血の匂いをさせて帰ってくるようになってから私、旦那様がもっと怖くなっちゃって…それで主さまに文を出したの。ずっと言えなくてごめんなさい」


「そんなことはいいんだよ。僕がここに来れて良かった。朔兄ならもっと早く苛烈な制裁をしてたかもしれないし」


――天満は優しい。

自分を慮って時間をかけて調べてくれる心遣いが胸に沁みて、腕を絡めて目を閉じた。


「ありがとう…天満様…」


あなたに早く、想いを伝えたい。