天満つる明けの明星を君に【完】

朝餉を食べた後、着ぶくれするほど雛菊に着こませた天満は外に出て冷気にあたるとぼそり。


「もっと着た方が…」


「ううん、大丈夫」


雛菊に笑われて笑みを見せた天満は、ひょいっと雛菊を抱えて辺りの散策を始めた。

…どうやら宿屋の件はすでに知れ渡っているらしく、様子を窺っている者も居るが、そういった視線は気にしない。

思う存分雛菊の気が済むまで草花や小川を見てなるたけ自然に触れさせるようにした。


「山頂に行こう。きっと身体が温まって気分が良くなると思うよ」


とんと地面を蹴って空を行くと、山頂で下りて草花が咲き乱れる上に座らせた。

幾分か表情が明るくなった雛菊とふたり、言葉もなく座って日向ぼっこをした。

天満にとって花は身近にあるもので、幽玄町の実家の庭には毎年様々な種類の花が咲き乱れて世話をすることも多かった。

つい懐かしんで淡い黄色の花を手折って愛でていると――雛菊がくいっと袖を引っ張ってきた。


「ん?どうしたの?」


「お家…どうなっちゃったのかな…」


「家って…宿屋のこと?…そうだね、少なくとも廃業に追い込むつもりではいるよ。うちから援助金が出てるはずだから、それを止めて…」


「天満様、様子が見たいの。連れて行ってくれない?」


「それは…いいけど…どうするの?」


雛菊は少し考え込むように俯いた後、きゅっと唇を引き結んで顔を上げた。


「私のお父様ね、病で亡くなったと思ってたんだけど…もしかして違うかもしれないの」


「そう…なの?それと関係あるの?」


「分からないけど…主さまは旦那様を疑ってるみたいだったから…」


そんな話は朔から聞いていない。

それで全てを自分に託してくれたのだと実感した天満は、こくんと頷いて雛菊の手を握った。


「じゃあ一緒に行こう。何があっても、何が見つかっても、僕が傍に居るからね」


「うん。ありがとう、天満様」


もう少し日向ぼっこした後、雛菊を抱き上げて宿屋に向かった。

真相はきっと、あの宿屋にあるはず。

絶対に、逃がさない。