天満つる明けの明星を君に【完】

眠る時も目が離せない。

雛菊が眠っている時は傍で読書をしたり、朔から届く文の返事を書いたりして過ごしていた。

あれからもう一週間が過ぎ、事態を把握した朔は、各地で起こっている騒動の一切を天満に伝えることなく、とにかく雛菊を気遣うようにと労ってくれた。

文を閉じた天満は、眠っている雛菊の細い腕をそっと取って随分薄くなった痣を見つめた。

温泉や薬の効果は確実に雛菊の身体を癒していったが――やはり何が起きたのかを雛菊は話さず、駿河の行方も今の所は全く分からない。

外に目をやった天満は、雛菊から離れて少し障子を開けて少しずつ寒くなってきた青空を見上げ、炭を作らなければいけないなとぼんやり考えていた。


――駿河を手にかけることは決定事項だ。

だがその後雛菊をどうするか…

離縁させたからといってすぐ求婚するわけにもいかないし、心の隙間に付け入るようなことは絶対にしたくない。

こういうのはきっと時間が解決してくれるのだろう。

元々気長な方だし、急ぐ必要はないと立ったまま茶を飲んでいると、雛菊が寝返りを打ったため肩越しに振り返った。


「起こしちゃった?」


「ううん…。天満様…いつも、ありがとう…ごめんなさい…」


「ん?何が?雛ちゃんは謝らなくていいんだよ。元気になるまで僕がずっとついてるから、君は何も考えず穏やかに暮らしてくれたらいいんだよ」


「…元気になるまで…?じゃあ…元気になった後は…?」


どきっとした。

心を読まれたような気がして言葉もなく雛菊を見つめていると、小さく微笑みながらゆっくり起き上がった。


「変なこと言っちゃった…。ごめんね」


「いや…ごめん、なんて返せばいいのか分からなかった。雛ちゃん、ご飯食べようか」


「天満様…外に出たいな。連れて行ってくれる…?」


珍しく会話が続き、喜んだ天満はすぐ頷いて雛菊の傍に座って額に手をあてた。


「うん、熱もないみたいだし、近場ならいいよ。ご飯を食べたら行こう」


今日は快晴だ。

沢山着込ませて寒くないようにしてやろう。


――相変わらずの、心配性。