しばらくの間は付きっきりで介護をする覚悟をした。

朔には駿河に逃走された旨と雛菊が重傷を負っている胸を文にしたため、なおかつきっと駆けつけると言うだろうと先読みをしてそれを頑なに誇示しますと書いて式神を空に飛ばした。


「さて、ご飯でも作ろうかな」


実は介護自体苦手ではなく、むしろ好きかもしれない。

弟や妹が増える度に時折息吹におねだりして、襁褓を替えたり風呂に入れたり着替えをさせたりして愛しんできた。

料理も洗濯も嫌いではなく、元々鬼陸奥に住むと決まった時から独り暮らしを覚悟していたため、氷室で材料を漁って台所に立ち、雛菊のために卵粥を作った。


「僕も一緒に食べよう」


雛菊が漬け込んでくれていた大根の漬物を添えて部屋に持って行くと、目は開いていたものの横たわったままの雛菊と目が合った。


「雛ちゃん、ご飯できたよ。ここで一緒に食べてもいい?」


返事はなかったが頷いたため、座椅子を用意して雛菊を座らせると、熱々の卵粥を見せて笑った。


「味見したから不味くはないと思う。ふうふうしてから食べてね」


まだ量は食べれないだろうと思い、小さな碗に掬って持たせると、香しい匂いに少しだけ雛菊の目に光が戻った気がした。

天満はそんな雛菊の前でちゃんと食べれるか不躾にならない程度に様子を見ながら、いつものようにがつがつ食べた。

爽快な食べっぷりに今度は明らかに雛菊が小さく笑うと、天満は小皿から漬物を箸で挟んで自らの口を開けて見せた。


「雛ちゃん、あーんして。これ雛ちゃんが作ってくれてたやつだよ。さっき食べたらすごく美味しかったから食べて食べて」


すると雛菊が躊躇しながら口を開き、その中に漬物を入れてふたりでぽりぽり。

満足のいく味付けだったのかまた少し笑った雛菊に安心した天満が茶を持って来ようと思って立とうとすると、雛菊が悲鳴のような声を上げた。


「行かないで…っ!」


「…うん、じゃあここに居るね。後で薬を飲もう。傍に居るから大丈夫だよ」


ほっとした顔をしたものの――首には絞められたような指の痕があり、腕には無数の痣があり、厳しい表情にならないようなんとか苦心しながら一緒にまた卵粥を食べた。


近いうち宿屋に行かなければならない。

きっと何か手掛かりがあるはずだから。