誰よりも熱心で優秀な生徒だった天満は薬草の種類に明るく、家に残した雛菊を思い遣りながら手早く傷に効く薬草を積んで家に戻った。

駿河が訪れた気配はなく、家に入って一旦寝ている雛菊を確認しに行った後、すり鉢を使って薬草を煎じながらも怒りが収まらず、むかむかしていた。


「どうしてやろうかな…」


――そう言いながらも、どうするかは決まっている。

あんな男を生かしておく理由はなく、けれども駿河の秘密はこれではないと感じていた。

手を挙げるのが問題だとすれば、朔がこんなにも警戒するはずがなく、秘密はもっと他のもの――


「今は雛ちゃんの身体を治すのが先だ。…いや…心かな…」


一部を天日干しにして、一部を湯に溶かして雛菊の元へ持って行った。

雛菊は寝てはいたものの、傍に置いてある手拭いは濡れていて、家を留守にしている間に雛菊がひとりで泣いていたのかと思うと胸が詰まって枕元に座って声をかけられずにいた。


「天満様…」


「!起こしちゃったかな…ごめんね。この薬を飲んでもう少し寝て。苦いからゆっくり飲んでね」


身体を支えてやって起こした後、雛菊はゆっくり飲みつつも時折咳き込んでまた顔をしかめた。


「痛いよね。時間をかけてちょっとずつ治そう。…ねえ雛ちゃん、僕は…実は堪忍袋の緒が切れちゃってるんだ。若旦那の暴力を黙殺していたあの家と若旦那の処遇を僕に一任してもらえないかな」


――何度も頬をぶたれて脳震盪に近い症状を起こしていた雛菊は、ぼんやりしながらも――天満が来たことを悟った駿河が一旦は自分を担いで共に逃げようとしていたことを思い返していた。

…実を言えば、愛情はなくともまだ情はある。

愛してくれていたことは事実であり、またそれに応えられず駿河の不満がずっとくすぶり続けていたことも知っていた。


だがもう…天満の表情を見る限り、もう庇い立てすることはできない。


「…うん…でもあまりひどいことは…」


「それは若旦那の出方によるよ。君はゆっくり寝ていて。後は僕が…」


僕が、秘密を暴くから。