家に着くなり、雛菊を抱いたまま風呂場へ行って固い表情をなんとか和らげて羽織を落とした。


「雛ちゃん、ひとりで入れる?」


「……ううん…」


「じゃあ僕が手伝うけど、構わない?」


「…うん…」


どこもかしこも痛むのか、少し動くだけで顔をしかめる雛菊の一糸纏わぬ身体につけられた痣は本来の雛菊の真っ白な肌の色を隠すほどに無数あり、痛ましさでまた険しい表情になってしまった天満は、なんとか笑顔を作って雛菊を座らせると、桶で湯を掬って身体にゆっくりかけてやった。


――今は何が起きたのかを問い質す時ではない。

何が起きたのかはなんとなく想像できるが、雛菊が自ら話してくれるまで訊くべきではないと思った。


「軽く拭くからね」


雛菊の身体に触れる度にいちいちそうやって説明をして、恐怖を与えないように努めた。

軽く肩に手を添えて湯に浸した手拭いで拭いてやると、雛菊の身体がぐらぐら揺らいで今にも気絶してしまいそうに思えて、意を決して雛菊を抱えた。


「このまま中に入るよ。僕が支えてるから、大丈夫」


天満の笑みに安心したのか、雛菊が小さく笑ったように見えた。

天満の肩に頭を預けて一緒に湯に入り、全ての穢れを取り払って身体の芯まで温まるのを待って湯から上がると、丁寧に身体を拭いてやった。


「雛ちゃん、僕は薬草を採って来るからゆっくり寝てて。絶対誰もこの家に入って来れないようにするから」


「…うん…」


そう言ったものの、不安に声が震える雛菊に浴衣や羽織を着込ませて、敷いた床に寝かしつけた。


人と寄り添って生きるために、祖父の安倍晴明から兄弟全員薬草学をみっちり教え込まれた。


今それを役立たせるべきだとまだ怒りに満ち満ちながら家を出て、以前以上に結界を強めて山林に向かった。