今度こそ彼は私からゆっくりと離れて、正面に座り直す。


「分かってないなぁ」

「っ……?」


彼は不意に私の頬に触れて、指先でなぞる。


「俺を肯定してしまった時点で、その心臓をくれるなんて言った時点で、そんな過去の話は必要が無くなったんだよ」

「?」

「ははっ、理解してなさそうな顔」

「淵くんが言う事時々難しいよ」

「そーだね」


でも、と続ける。


「肯定してくれた事で救われたような気がして、ヒーローみたいだなって。……んーん、それよりもっと“神様”みたいにすら思えてさ」

「神様って……ふふっ、大げさだね」


それでもそう言って、私の言った言葉で過去を清算出来たのなら喜ぶべき事だ。

また、外が暗くなり部屋に影を落とす。

もうそろそろ夜になる、と窓の外を眺めれば彼が動く気配がした。


「ねぇ、もう一回抱きしめてもいい?」

「へっ!?」


驚いて反射的にそちらの方を見れば、両腕が私の肩に乗せられた所だった。

重くもなく軽くもない独特の重量を受けて、心臓が跳ねる。


「さっきはいいって言ったのに」


くくっと笑いを零して私の反応を楽しんでいるかのよう。