…と、その時だった。


…ポツ。


縁側の石に、雨粒が落ちた。ぱらぱらと強くなる雨。厚い雲が広がる曇天は、どうやら通り雨というわけではないようだ。


「もうすぐ六月ですからね。梅雨が近づいて来ているんでしょう。」


咲夜さんの言葉に、私は、はっ、とした。


「伊織は、傘を持っていないですよね?」


「…!確かに。帰路で雨に降られているかもしれません。」


(これは、伊織と話をするチャンスかもしれない。)


咲夜さんに許可を取り、私は、そんな下心を胸に、彼を迎えに行こうと傘を二本持って屋敷を出た。

流石に一人では危険なので、虎太くんも一緒だ。

ぱしゃぱしゃ、と水溜りを歩く彼は、楽しそうに私に声をかける。


『伊織さまは、どこにいるんでしょうね?』


「そろそろ帰ってくるって咲夜さんが言ってたから、屋敷の近くで雨宿りでもしてるんじゃないかな。」


『あぁ!そうかもしれませんねっ!』


二人で並んで町を歩きながら、雨に濡れる紫陽花を眺める。カタツムリやカエルに目を輝かせる虎太くんを微笑ましく見ていると、やがて人通りの少ない道に出た。

町の人々も、雨を避けて外に出ていないようだ。

…と、その時。ぱらぱらと傘に当たる雨の音を聞いていると、目の前に人影が現れた。傘を持たない“彼”は、私の顔を見て、はっ!とする。


「あんた、陽派の…!」


「あ、綾人?!」