私は、そんな彼の言葉に動揺してしまう。

私の中でも、出会った頃よりは伊織のことをよく知れたし、彼も私に心を開いてくれていると思っていた。

…だが、私はこの前、決定的なミスを犯してしまったのだ。


“…私じゃ…だめかな…”


“…!”


あの夜のことは、酔っていたとはいえはっきりと覚えている。

まさか、ずっと言えなかったことをお酒の力を借りてぽろり、と暴露してしまうなんて。


(…伊織は、困ったような顔をしてた。きっと、迷惑だったんだ。)


あの瞬間から、縮まってきたと思えた私と伊織の心の距離が、出会った頃くらいまで離れてしまった。

翌日、廊下でばったり会った時も、お互い一瞬気まずくなった。伊織はすぐに「おはようございます」といつもの笑みで話しかけてくれたが、それ以上の会話はなかった。

…完全スルーだ。向こうは、酔っ払いの戯言だと思っているのだろうか。

あれは、冗談なんかじゃない!本心なの!と、叫びたいくらいだが、さらに距離を置かれても困る。


“…俺は、生涯そういう方を作らないと決めているんです。”


そう言われた数秒後に告白する私も、どうかしていた。玉砕すると分かっていたのに。


(でも…)


たしかに、あの夜、伊織は私の手を取った。そして向こうから指を絡め、偶然では成り得ない体勢になった。

まるで、口づけをするような。そんな予感を微かに感じたのに。


(…どうして、あんなことを…)