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───トン。


華の部屋の襖を、静かに閉めた。縁側から見えるのは、先程まで二人を照らしていた月。その形は、日に日に満月へと近づいている。


「……。」


伊織は空を見上げ、壁に、トン、ともたれかかった。そして、小さく息を吐く。


『……ヘタレ。』


「っ!!」


どきり、として声の方を見ると、隣に立っていたのは、酔いが覚めた様子の千鶴だった。

ニヤニヤと笑う彼に嫌な予感がした伊織は、ぐっ、と眉を寄せる。


『姫さんにあそこまで言われて手ぇ出さないとはな。見上げた理性だぜ。拍手だ拍手。』


「…ちょっと黙ってくれ。」


『何だよ。邪魔しに行こうとする花一匁をわざわざ止めてやってたんだぞ、ありがたく思え。』


…確かに、主に傾倒している花一匁に息の根を止められたら敵わない。まぁ、“すんでのところ”で踏みとどまったが。

すると、千鶴がふっ、と真剣な表情で伊織に尋ねる。


『どうして姫さんに応えなかったんだ…?お前だって、姫さんを………』