『なんだよ、伊織。俺たちだけじゃ不満なのか?』


その時。今まで寝ていたはずの千鶴が、むくり、と起き上がってそう言った。拗ねたような口調に、伊織は苦笑する。


「違う違う!千鶴と虎太がいてくれれば充分心強いけど、あくまで最悪の事態を考えて、ってことだよ。」


『ふーん…』


彼のフォローに、一応納得したようだ。“心強い”と言われ、機嫌が良くなった様子の千鶴は、虎太くんとともに羊羹を食べ始めている。

そんな彼らを微笑ましく思っていると、伊織が顕現録を見つめて、ぽつり、と呟いた。


「格の高い折り神は顕現するのも至難の技ですが、力を持つゆえ、心を通わせるのも難しいと聞きます。…うまくいくといいですが。」


「…!そうなんだ。」


霊力を奪ってしまった手前、伊織の期待に応えなくてはならない。真剣な当主の顔をみせる彼に、私はぐっ、と拳を握りしめた。


(私に折れる依り代が、あればいいけど…)