すると、私の言葉に伊織はわずかに表情を曇らせた。真剣な瞳に、私は首を傾げる。


「俺は、月派に目立った動きがないことが、逆に不自然に感じます。…恐らく、奪った顕現録からどうにかして折り神を顕現しようとしているのでしょう。」


その言葉に、私はどきり、とした。戦いの予兆が、こんな平和の中に隠れていたなんて想像も出来ない。

すると、伊織が険しい顔をしながら、ぽつり、と呟いた。


「…我々も月派の襲撃に備えて、そろそろ“格の高い折り神”の顕現を試みないといけませんね。」


「“格の高い折り神”?」


伊織の言葉を聞き返すと、虎太くんが、羊羹を美味しそうに頬張りながら答える。


『ぼくたち折り神は、依り代の“難易度”によって、“格”と呼ばれるレベルが決まっているんです。つまり、折るのが難しい依り代ほど、格の高い折り神が宿るってことです。』


(へぇ、そういうのがあるんだ?)


部屋から持って来た顕現録をぱらぱらとめくると、依り代の絵の隣に、筆で“星”が描かれている。今までは気にも留めなかったが、この“星”が多いほど、呼び出せる折り神の格が高いようだ。

ちなみに、千鶴と虎太くんの星は、三つ。どうやら、同じ格らしい。