…ぐいっ。


優しく、フローリングの上に押し倒された。熱を帯びる白銅の瞳が、目を見開く私を映す。

伊織が、いつもより少し余裕のない声で呟いた。


「…本当に、華さんは俺を煽るのがうまいですね。…誘われているのかと、勘違いしそうになる。」


「…!」


離れでの夜と、同じ体勢。二人っきりの空間。しかし、あの夜とはまるで違う。抵抗する気なんて、もう、ない。


「…勘違いじゃないよ。…これでも、勇気を出して言ったの。」


「!」


揺れる白銅の瞳。甘い予感に、ぞくり、と震える。私は、彼をまっすぐ見つめながら尋ねた。


「伊織、その前に一つだけ聞いていい?」


「?」


「…どうして、霊力を戻すことを断ったの?」


「…!」


十二代目が死んだ夜。綾人の術を解く時になって、伊織はそれを拒んだ。

伊織の霊力を私が奪ってしまったことが、全ての始まりだったのに。私は、霊力なんて必要ない、と言った彼の気持ちが想像できなかった。

すると、伊織はわずかに頰を染めて、ぽつり、と答える。


「…霊力が戻らなければ、華さんが俺の側にいてくれるかもしれないって、思ったから…」


「!」


「トリップの機会を捨ててまで戻って来てくれた貴方を、手放したくないと思ってしまったんです。」


初めて語られた彼の本音に、どくん!と胸が音を立てた。全身が、かぁっ、と熱くなる。


「えっと、そ、それはどういう…」


「聞くのは一つって言ったじゃないですか。もう待てません。」


私の首元に顔をうずめた伊織の髪が、頰に触れる。石鹸の香りがふわり、と香った。

伊織は少しの間の後、耳元で囁く。


「…華さんを愛してしまったから。」


「っ!」


「ただ、それだけです。」