(…!)
ぎゅっ、と強く握られる。彼の熱が、包み込むように大きな手のひらを通して伝わってきた。
縋るような視線。真剣な彼の表情。
───あぁ、もうダメだ。
「…っふふ。」
「…?華さん…?」
思わず顔が緩んだ私に、伊織は戸惑ったように眉を寄せた。そんな彼に、愛しさが溢れて笑いが止まらなくなる。
「ごめんね、伊織。ちょっと意地悪しちゃった。」
「え?」
私は、すっ、と彼の正面を向く。そして、動揺する彼に、にこりと笑って告げた。
「私は最初から、伊織についていこうと決めてたの。」
「!」
「でも、伊織に言って欲しくて、この世界に残るフリをしちゃった。…私も伊織に散々振り回されたし、これくらいいいでしょ?」
目を見開く伊織。私が共に帰ることを、本当に予想していなかったようだ。
数秒の沈黙の後、彼はわずかに頰を染めて呟いた。
「…本当に…?」
私は、言葉の代わりに彼を抱きしめた。ぎこちなく回された腕。次第に伊織も私を抱きしめ返す。
「…私は今さら、大好きな人と離れる未来なんて選び取れないから。」
「!」