(…最悪。)


「ずっと連絡つかないから、心配してたんだ。元気だったか?」


なんだ、こいつ。別れよう、の一言だけ告げて、私の前からいなくなったくせに。今さら、どのツラ下げて“心配してた”なんて言えるんだ?

急に、苛立ちが募った。もう、好きだった気持ちなど一ミリも残っていない。

しかし、彼はそんな私の態度に気づかないのか、いけしゃあしゃあと言葉を続ける。


「実は、付き合ってた女と別れたんだよね。…やっぱり、俺のことを一番理解してくれたのは、華だったって気付いてさ。話をしようと思って待ってたんだ。…俺たち、やり直さない?」


「…は…?」


つい、心の声が漏れた。本当に、なんでこいつのことを好きだったんだろう。

冷めた恋心ほど、尖ったものはない。うっすら殴りたい気持ちさえ覚える。

何言ってんの、あんた、と、口走ろうとした、その時だった。


「“華”。」


…ぐい。


(!)


肩を引かれた。驚いて後ろを見ると、見たこともないほど怖い顔をした伊織がそこにいた。伊織の存在に気がついた瞬間、彼の顔もひきつる。

初めて、呼び捨てで呼ばれたことに小さな感動を覚えていると、伊織は低く続けた。


「こいつ、誰?」


「!」


威嚇するような口調の伊織に、おずおずと答える。


「も、元彼。」


「…?」


「えっと…前に付き合ってて、振られた人。」


伊織の顔つきが、さらに険しくなる。かつて、神社で語った話を思い出したようだ。元彼は、そんな伊織に喧嘩腰になる。


「…なんだ、お前。華の新しい男か?」


挑発するような彼に、伊織も、むっ、としたらしい。つい、ぽろり、と本音が出る。


「華。こんな男のことが好きだったのか?」


(!)


「何だと…?」