聞きなれない単語に戸惑っている様子の伊織だが、体の軽さに気づいたのか、穏やかな呼吸をして呟いた。


「…この世界の医療はすごいですね。まるで魔術みたいだ。」


「ふふ。…ここに来た時は正直危なかったけど、薬を飲んで安静にしてれば、よくなるみたいだから、ゆっくり治してね。」


…伊織は、もともと肺の病を患っていた。ストレスなどからくる原因もあったそうだが、過労がたたって拗らせていたらしい。肺にできていた腫瘍は良性で、転移も見られなかったことが幸いだ。

病院生活を送る中で、伊織の体調はだんだん回復の兆しを見せた。顔色も良くなり食欲も戻ってきたようで、胸の痛みや息苦しさも、ほとんどなくなったらしい。

伊織が「本当に魔術ですね!」と目を輝かせるので、私はそんな彼が愛おしくてしょうがなかった。


…そして、入院から三週間。ようやく、彼の退院許可が下りた。


「華さん。お待たせしました。」


着替えの入った鞄を手に、笑顔で歩み寄ってくる伊織。もともと容姿端麗な彼は、和服を脱いで洋服を着ただけで様になる。


「…伊織、やっぱりかっこいいね。」


「え!そ、そんなことは…。華さんこそ、可愛らしいです。」


素直に照れてそう言ってきた伊織。彼のためにオシャレをして、久しぶりにメイクもした。毎日病室に通って顔を合わせてはいたが、今日は特別だ。