……もし、わたしがリサちゃんに『本音で相澤くんと接してほしい』って言ったら。


 リサちゃんは、その通りにしてくれるだろうか?


 わたしがそう言ったから、って。わたしの責任にしてくれてもいいから。……相澤くんは、どう思うか知らないけど。もしかしたら、無理矢理言わせてるってとるかもしれないけど。


 わたしはやっぱり自分に正直になってほしいし、リサちゃんが相澤くんのこと好きって言うんなら……しょうがないかなって思える。リサちゃんの気持ちを、わたしが否定する権利はないから。


 だけど……わたしから何も言わないでも素直になるのが、一番の解決方法だよなぁ……。



「……あ、相澤くーん……」



 休み時間、一人きりになった隙を狙って相澤くんに近寄った。



「ん? なにかな朝霧さん」


「あ、あのさぁ……ま、まだ、怒ってる? わたしに対して……」



 あの日の真顔がフラッシュバックする。あ、あれは本当に怖かったから……結構トラウマレベルなんだよね……。


 相澤くんにビクビクするのって、なんか負けた気がするから嫌なんだけど……いや、でも、やっぱり怖いなぁ。


 またあれされたらどうしよう。一生分の恐怖を植え付けられるに決まってる。今でさえ、こんなにガタガタブルブルしてしまうのに。



「うーん……怒ってないって言ったら嘘になるけど」


「ひ、ひぃ……」



 で、出たーーー!! ○○って言ったら嘘になるけど!!! それもう怒ってるってことじゃんーー! はっきり言ってよ! その言い方、すごくじわじわ恐怖が染みてくるんだよ!!


 う、うおぉ、相澤くんの眼孔が! にこ……って、笑いかけてくるけども! 怖いぃ、捕食者の目だよぉぉ!! 骨まで食い尽くされるよぉ!



「あのさぁ……そんなに怖がらなくても……あのときはあれくらいしないと朝霧さんは気づかないと思ってしただけで……」


「た、たった一度の過ちでも! なかったことにはなな、なならないと、お、お思います!」


「うん……俺もそう思うよ……? でも、そこまでじゃなかったよね?」


「ひっ、すみません!」


「あ、うん……。実は俺、地味に傷ついてるからね?」



 な、なんだよ! トラウマを与えたのはそっちなのに! わたしも傷ついてるよ!


 でも、怖がってたら何も進まない。


 今まで微妙にずらしていた相澤くんとの視線を合わせると、相澤くんも真剣に見つめ返してくれた。そして、いつものように柔らかくほほえむ。全然、怖くなかった。



「気付いたんでしょ? 俺の言った意味」


「うん……」


「だったら、別に。後は俺と理沙子ちゃんの問題だし」


「――あ、あのさ……そのことなんだけど……」



 確かに、二人の問題だ。


 だけど、わたしは気付いてしまった。リサちゃんは、やっぱり自分の気持ちを殺してるんだって。



「わたし、リサちゃんは相澤くんのこと、好きだと思う……」



たぶん、リサちゃんは私がリサちゃんに相澤くんを好きになってほしくないって思ったから、気のないふりをしたんだと思う。



 一回、リサちゃんが嬉しそうにしていたときがある。それは、告白されたことを私たちに報告していたときだ。


 でも、わたしの反応はあまりよくなかった。だから、リサちゃんは相澤くんを好きになることはよくないことなんだって判断したんじゃないかな。


 相澤くんにはこれを言うべきか迷ったけど、あくまでわたしの推理でしかないし、それに聞いてほしかった。


 わたしのせいだから。


 わたしが、リサちゃんの気持ちを押し殺してしまったから。


 だから、相澤くんにはそれで気持ちを落ち込ませたくなかった。


 リサちゃんがわたしに迷惑をかけたくないように、わたしもまた、リサちゃんの意見をかき消したくないから。


 そういうと、相澤くんはいつもの、優しい笑みを返してくる。




「———うん、俺も。そう思ってるよ」




 そのときの自信に満ちた相澤くんの表情は、うぬぼれてる、なんて言葉が言えないくらい魅力的だった。


 ———なんだ、知ってたんだ。


 じゃあ、これは本当に、二人だけの問題みたいだ。



「よかった……」


「これは俺の方が、理沙子ちゃんのことわかってるってことだね」


「な、なにを!? そ、そんなわけないでしょ!?」


「どうだろうねー」



 あ、あれ!? やっぱり相澤くんは、ライバルなんじゃないか!?