佐々木美咲。彼女は、私の憧れだった。


 彼女と私は、同じ中学……もっと言うと、小学校から同じ。だからといって特に接点はなかったけど、それでも、私は彼女のことを見ていた。


 明るくて、可愛くて、頭も良い。男女への態度も分け隔てなくて、みんなに信頼されていた。クラスは違ったけど、私の元まで情報が流れてくるくらいに人気者。


 日陰者の私なんて比べものにもならないくらい素敵な人なんだということは、言葉にする必要さえないものだった。そんな佐々木さんにひっそりと憧れる毎日。彼女を見かけるたびに心が弾んだ。


 だけど人気者というものは大変なのだと、知らなかった頃の私は馬鹿としか例えられない。


 中学二年生のある日、友達が小さくぼやいた。



「なーんか、佐々木さんて八方美人でどうかと思うんだよね」


「え……?」



 一瞬理解できなかった。


 今、私の友達は、私の憧れの人を貶したの……? どうして? 佐々木さんは、あんなに素敵な人なのに。どうして?



「え……佐々木さんのこと、嫌いなの?」


「ううん、別に嫌いじゃないよ。ただ、なんかなぁって思っただけ」



 嫌いじゃないのに、悪口を言うの? ……よく、わからない。それに八方美人って……。みんなに平等に接しているだけなのに、そんな風に言われなきゃいけないの?


 佐々木さんは、誰よりも頑張っているのに。努力をしているから、ああやって誰からの信頼を得て、みんなが大好きな佐々木さんなのに。


 ただやっかむだけやっかんで、自分は何もしていないくせに……。


 友達にさえそんな感情を抱いてしまい、それから彼女とは疎遠になっていった。


 ——彼女のことは、私だけがわかっていればいい。たとえ世界中の誰もが佐々木さんを見放しても、私だけは佐々木さんのそばで見守っていくから——


 ずっと日陰者だった私には、日向できらきらと輝く彼女が神様のように見えていたのだった。



「佐々木さんってちょっと男に媚びすぎかも」



 佐々木さんの近くにいつもいる子でさえ、そんなことを言っているのを聞いた。もうなにがなんだか、誰を信じればいいのかわからない。


 私は確信した。日向にいるのは、佐々木さんだけだって。佐々木さんの周りの人たちは、みんな佐々木さんを日陰から守るための壁なんだって。


 やっぱり、佐々木さんだけは特別なんだ。



 一度、奇跡的に彼女と話せたことがあった。


 私のクラスと、佐々木さんのクラスの合同授業。私は佐々木さんを少しでもやっかむ人たちから離れた結果、ひとりぼっちになっていた。


 別にそれが悪いことだとは全く思わなかったし、むしろ離れられて清々していた。だけど合同授業ではグループを作らなければならなくなって、私はひとり余ってしまう。


 そんなときに声をかけてくれたのが、佐々木さんだった。


 彼女からしたら見ず知らずの女子。それなのに迷うことなく仲間に入れてくれて、暗くてとろい私にも嫌な顔せず接してくれた。


 私はまた確信する。やっぱり彼女は神様だった!