だから俺のことも忍者も忘れてほしかった、と和久津くんは言った。


 淡々と話していたので内側の感情はわからなかったけど、きっとたくさんのものを押し込めているんだろう。それが見ていられないくらい辛い。


 今の葵ちゃんからは想像もできない。だけど、葵ちゃんが今ああなのは和久津くんあってこそで、葵ちゃんは和久津くんを忘れたくなかったから続けてるのかな。


 二人の意思はまるで正反対だ。


 そんな状況で、わたしが和久津くんに言えることは……。



「ごめんね。わたしは、やっぱり葵ちゃんの味方をする」



 だって、和久津くんは葵ちゃんの味方をできなかったんでしょ? だったら、今度はしないと。しないと、後悔の塊である昔の和久津くんと同じだ。


 そろそろ、和久津くんだって変わらないとね。


 ……まあ、ちょこっと話を聞いただけのわたしに何がわかるんだって話だけど。



「……ああ。おまえなら、そう言うと思ってた」


「あ、読まれてたんだ」



 そんなにわかりやすいのかなーわたし。



「なぁ……俺は、どうすればいいと思う?」


「えっ?」



 和久津くんに頼られた! というか、和久津くんから歩み寄ろうとしてる? 忘れてほしかったんじゃ……。


 やっぱりわたしはわかりやすいらしく、和久津くんは「気づいたら少し気がわかっていた」とそっぽを向く。それって……わたしが変えたのかな。少しでも和久津くんの中に入って、どこか揺さぶることができてたのかな。


 うーん、そうだなー。確かにわたしは二人を仲良くさせたいけど、一方の気持ちだけ知ったってどうにも。葵ちゃんの話も、聞いてみないと。



「和久津くんは、まだ自分のことを責めてるの?」


「……それは」


「あのね、それだけは、葵ちゃん望んでないと思う」



 葵ちゃんのことなんて、全然わからない。全然知らない。だけどそれがわかるのは、葵ちゃんがそんな人間なんだって今まで見てきたから。


 聞いたものだけが全部じゃないはずなんだ。見たもの、感じたものもその人を表す大事なところだから。


 和久津くんは、それを知ってるんだよね。知ってるから、完全に葵ちゃんを否定しきれないんだよね。


 わたしはうまく言えないけど、それでも伝わったらいいなって思う。


 大事なのは逃げることじゃなくて、伝えることなんじゃないかな。



「それが無理なら、例えば手裏剣を百個作って『これが俺の気持ちです!』なんて言っちゃうとかね」


「……ふざけてるだろ」


「ふざけてないよ」


「あ……」



 だって葵ちゃんは和久津くんがあげた手裏剣に執着してる。あれだけが和久津くんと一緒にいたんだっていう証拠で、葵ちゃんが忘れないようにするための記憶のしおり。


 和久津くんが覚えてるよってことを示すには、いい考えだと思ったんだけどな。



「和久津くんの不安は全部わたしが取り除くよ。葵ちゃんはもういじめられたりなんかしないし、ひとりぼっちにはならない。わたしがいる限りね!」



 なーんて。ビシィ! と指を突き立てながらかっこいい言葉を並べるけど、わたしじゃさまにならないな。


 でももう少しで押し通せる。和久津くんを説得できそう。弱ってるところにつけ込んでるみたいで罪悪感だけど、わたしは葵ちゃんの味方だからね。




「さて。和久津くんは、どうしたい?」




 我ながら、卑怯な質問だった。

 
 和久津くんはゆっくり頷いて、わたしを見る。



「俺は……」