あの日から名取くんとの距離が変わったのかと問われれば、そりゃあもちろん変わった。もう大幅にね!


 まずは最大の第一歩、携帯番号とメールアドレスの交換! そうだよ、わたし達、アドレスを交換したんだよー! 通話はまだしたことないんだけど、そこでこっそりひっそり愛鉢や、他のおすすめ漫画の話をするわたし達……。


 わたしはなんて幸せ者なの!? これ以上の幸福はない!


 ——と、思っていた時期がわたしにもありました。



「朝霧さん、今日もいいかな?」


「な、名取くん! よ、よろこんでー!」



 名取くんが相澤くんと和久津くんを率いて、わたしの席へとやってくる。そして、その手にはお弁当があり、まだかまだかと光り輝いていた。わたしにはそう見えた。


 つまりは。


 わたし、朝霧みおは、なんと! 名取くんとお昼を一緒にすることを許されたのです!


 だけど、二人きりはまだ許してくれないらしい(主に和久津くんが)。少し残念だけど、名取くんと相澤くんと和久津くんの三人、わたしとリサちゃんと葵ちゃんの三人を合わせることで妥協してもらった。


 そのせいで愛鉢の話はあんまりできていない。


 急にお昼を一緒に食べるようになったことをみんなが不思議がらないわけがなく、相澤くんにはストレートになにがあったか聞かれたし。まあ、これは二人だけの秘密だから口は割らなかったけど!



「忍者……また俺の獲物を持って行きやがって……っ」


「ぎゃあ! く、クリームパンは譲ったでござろう!」


「今日は焼きそばパンの気分なんだよ!」


「ことごとくかぶるでこざるな! ちょっ、いでででっ!」



 いつも通りの葵ちゃんと和久津くんには、さすがの名取くんも相手にしなくなっていた。


 和久津くんの一見強く見える頭ぐりぐり、どうやら葵ちゃんいわく手加減は一応してくれているらしく、しかし痛いものは痛いので声に出してやってるそうだ。この二人、なんだかんだでやっぱり仲が良いのかもしれない。


 おお、それを微笑ましそうに見るリサちゃん。リサちゃんには何もかも微笑ましく見える瞳の持ち主なのだろうか。いつもにこにこして……わたしの心臓を安定させてくれる癒しだなー、もう。


 あれっ、もうひとりの癒し(ただし常時ではない)相澤くんは……。


 うわ、わたしを見てる。めっちゃにやにやしてわたしを見てる。こういうときの相澤くんは、全然癒しじゃない! 王子様スマイルだけしててほしい!



「あの……朝霧さん。失礼、するね」



 ガタッと椅子を置く音が聞こえて、名取くんがわたしの隣に座った。近くの机に許可をもらってくっつけ、椅子も同様。

 
 うそ、名取くんはわたしの横を選んだの? そんなの初めてなんだけど……。こ、こんな近くで食べてるところを見られるなんて、緊張する! ああ、でもでも、早起きしてお弁当お母さんに手伝ってもらってよかった!



「あ、私フルーツあるから、みんな食べてね~」



 リサちゃんが水玉の巾着からプラスチック容器に詰められた色とりどりのフルーツを取り出した。なんとも可愛らしい。


 これが女子力なの? みんなよろこんでもらってるし。あっ、名取くんもイチゴを選んだ。わたしと同じだ!


 もしかしたら……リサちゃんのフルーツに負けたかもしれないわたしの半手作りお弁当。うーん、今度はもっと人の目を引きつけるキャラ弁とかに挑戦してみるべきかな。


 ウインナーを箸でつまんで口に入れる。焼いても焼かずとも美味しいウインナーって、夢のような食材だと思うんだ……けど、前から突き刺さる視線にウインナーの味は死んでしまった。


 机を挟んでわたしの前に座るのは、奴だ。そう、相澤くんだ。にまにま笑ってわたしのお弁当を見下ろしている。だからその笑顔、わたしそんなに好きじゃないんだってばー!



「綺麗で美味しそうだね、朝霧さんの弁当。手作りでしょ?」



 笑顔じゃ飽きたらずこんなことまで言ってきた。嫌みでしょ、それ。だって相澤くんのお弁当は、明らかに冷凍食品じゃないものばかりが並んでいる。なんか見た目も格が違うし。ほら、それなんかちょっと前に流行ったおにぎらずじゃん。


 嫌みを言い返そうにもすぐに返されそうで、「ありがとう」と断念した。まったく、相澤くんは何がしたいんだか。



「手作り弁当って、いいと思うよ」



 次は何を……と一瞬考えたけど、それを言ったのは相澤くんじゃなくて名取くんだった。


 すぐ隣には、目を細めて緩く笑う姿。相澤くんの気持ち悪い笑みとはわけが違う。いつもの通り体温は急激に上がり、まさかこれが目的かと相澤くんに向けばご名答だったらしい。


 く、悔しい……でも、ありがとうございます相澤くん! いや、相澤様!