「俺はね、やっぱり王道に瞬なんだよね。八重との掛け合いも面白いし」



 ん”ん”ん”ん”できないに決まってるじゃんーーっっ!!


 そんな! 笑顔で! 愛鉢のヒーローの話されて! 「わたし達、付き合ってるの?」なんて聞けるわけないじゃん!


 でもひとつだけわかったことがある。勘違いしてるのは、たぶんわたしだった! わたし達、付き合ってない! 絶対なにか主語を履き違えて会話してた!


 ああよかった。酷いことになる前に気付けて。やっぱり名取くんにははっきりしっかり主語を明確にして告白しないといけないね。


 告白は失敗に終わったけど、チャンスはまだある。頑張れわたし。



「で……朝霧さんはどっちなの?」



 なかなか返事しないわたしに首傾げて、名取くんは再度質問してきた。あっ、どうしよ今、すぐに返事しなくて愛想悪くなかった? せっかくチャンスが巡ってきたのに、これはないって!


 う、あ、謝った方がいいかな、どうやって言ったら……。



「……朝霧さん?」



 名取くんがわたしの顔を覗き込んできた。ちっ、近い! 顔が近いぜ名取くん! わたしに口臭を気にさせて息を止めて、窒息死させる気ですか!?


 とりあえずなにか答えよう! 今、この状況に耐えられるくらいの名取くん耐性はわたしにはない!



「あ、わっ、わたしは春人くんですっ!」



 そして、言い終わってから気付くこともある。


 しまった! ここは名取くんに同調して瞬くんだと言うべきだった! なに真逆言っちゃってんの!? わたし別にどっち派でもないじゃん! 名取くん派じゃん!


 愛鉢には二人のヒーローがいる。


 ひとりは無愛想ツンデレイケメン瞬くん。王道だと思われがちなのは、ライバルの優しすぎるヒーローは譲ってしまうからなのかもしれない。


 もうひとりは瞬くんの幼なじみで、とろける笑みが魅力的なイケメン春人くん。学校の人気者で、頭が良く運動もできて優しい完璧人間。


 イメージでは瞬くんが和久津くんで春人くんが相澤くんって言えば、わかりやすいかな。うん、そんな感じ。まあ、春人くんは相澤くんみたいにからかったりはしないけどね。


 ……って、ヒーローの設定思い出してる場合じゃないんだってばー! ここで意見の食い違いが出てきて、興味失われたら終わりだ! さっきはっきり告白しておけばよかったー!



「……そっか」



 名取くんは平坦なトーンで、つぶやく。


 ……う、あ、名取くん………好き。好きなんです。


 はあ、声に出せたらなー。



「やっぱ面白いね、違う人の意見って! 春人のどこがいいの?」



 もう駄目だと目を背けたのに、名取くんは全然いつも通りだった。むしろ、教室で見るより明るい。わたしにだけそんな姿を見せてくれてると思うと……あっ、どうしようときめく。顔の赤みが引かない。


 もう……ですよね、ですよね!


 わたしってば卑屈になりすぎだ。名取くんがそんなことで人を嫌うわけないし、ずっと見てきたくせにそんなのも忘れたのか。



「えーと……たまにド直球なこと言ってきたりとか、ちょっと天然なところ、わたし好きだな」


「あー、春人、『可愛い』とか普通に言うよね。ああいうシーンは見ててめっちゃ恥ずかしくなる……」



 なにそれ可愛い。


 この日のことは絶対忘れません。そしていつか、また告白してみせる!


 待っててね名取くん!