『来ない、かぁ。』

1時間、たった頃にもう1回携帯電話を取り出す。

樹からの連絡は来ていない。

『はぁ…』

ため息を、ひとつ落としたところで、後ろの方から話し声が聞こえてきた。

『え…?』

それは紛れもなく、樹の声で。


隣には、学年一の美少女と歌われる女の子がいた。

こんなにも暑いのに、かなりくっついて。

仲良く談笑しながら歩いている。


『へぇー?』


予定があるのなら、私の方、断ればいいのにね。

そうすれば、ここに来なかったのに。

私、こんな暑い中、1時間も待たなくて良かったのに。


ふ、と樹と目が合ったが、すぐにそらされる。


『はははっ』


笑いがこぼれる。


つまり、そう言うことだよね?

私たちは、もう付き合ってなかったってことだよね?

自虐的な、笑。

樹を好きだという気持ちは、もう完全に消えていた。



『もう、いらないや、あいつなんて。』


ポツリ、と呟く。

私は、少女漫画の主人公のように綺麗な心を持っていない。

理由があったんじゃないか、なんて馬鹿みたいに相手のことを信じられない。

あんな、純真無垢なんかじゃいられない。



もしかしたら、皆から愛される主人公は、浮気をされて心が痛むのかもしれない。

だけど、まだ嫌いにはならなくて、きちんと話を聞くまで馬鹿みたいに信じ続けるのだろう。






私には、無理だから。





冷めちゃったから。もう、付き合ってもいないようだし。





勝手にするね。




復讐、してやるよ。


待ってろ、浅岡 樹。



復讐……そんなにあくどいことは、しないよ?

ただ。

あんたにされた同じことを、し返してやるよ。