本社には初めて出向いたけれど……。
 何もかもが桁違いで見上げてキョロキョロしてしまいそうで、倉林支社長の後ろについて俯いていることがやっとだった。

 エントランスは高級ホテルみたいに華やかだし、担当者が来るまで待つように言われたロビーはお洒落なカフェのようだった。

 夢見心地で待ちながらも私はどこか違和感を感じていた。

「倉林くん。待たせたね。行こうか。」

 迎えに来た人も受付の人も。
 誰も倉林支社長に役職を付けて呼ばなかった。

 本社では支社長じゃないから?
 あれ、でも普通はどうだっけ……。

 なんとなく本社での対応に違和感を覚えつつ慣れない本社での仕事は目まぐるしく時間が過ぎて仕事を終えた。

 参加した会議の内容は山野支社の在り方や、存在価値についての意見交換会のようなものだった。
 議事録は後からもらえると言われ、本当に私は話を聞いているだけだった。

 本社では美し過ぎる倉林支社長もどこか霞んで見えて、このくらいの方が刺激が少なくて助かるんだけど。
 そんなことを思って本社を後にした。