遅くなってしまう時に知らぬ間に消えた彼がお弁当片手に戻ることは少なくなかった。
 時に買ってきたものだったり、お手製だったり。

「あの……。お弁当、交代制にしませんか?
 僭越ながら私も作ります。
 もちろん作れない時は買ってくるとは思いますけど。」

 運転中の彼を伺うと彼の横顔は少しだけ困ったような嬉しそうなような…眉尻を下げ、苦笑するような顔をした。

 うわ……なんだか、その顔……。

 彼が運転中でこちらを見られない状況なのはものすごく助かった。
 顔が熱い……。

 だから、至近距離で彼を直視するのは厳禁!

 自分を叱りつけて何事もないように付け加えた。

「倉林支社長の比じゃないですよ?」

「ハハッ。期待してるよ。」

「やめてください!プレッシャーです。」

 彼に女らしさをアピールしたいわけじゃない。
 そもそも倉林支社長の方がお料理上手なんだからアピールにはなってない。
 大丈夫。大丈夫。

 何が大丈夫なのかよく分からないけどフェアじゃない関係を少しでもどうにかしたかった。