「いや。仕事の話は終わっていたから気にしないでくれ。
 それよりも……。
 西村さんは、その、松嶋が既婚者だということは……。」

 倉林支社長が言葉を濁しながら質問をしてきた。
 まだ顔は背けてこちらを見ない。

「え?もちろん存じ上げております。」

 なんの質問だろうと分からないまま質問に答える。

「そうか。
 しかし、、松嶋と奥様の関係も?」

「はい。もちろんです。
 とても奥様のことを大切にされていてそんなところも尊敬しています。
 あの、何が言いたいのでしょうか。」

 もしかしてあんなに愛妻家だった松嶋工場長の結婚生活に危機が訪れたとか、そういう?

「それなら良かった。
 西村さんが、その、悲しい思いをしていてはと心配を……。」

 そこまで聞いてやっと彼の言いたいことが分かって呆れ返った。
 目を合わせてくれないのもそのせいかと合点がいった。

 その心配はまったくもって嬉しくない。

 私は皮肉たっぷりに告げた。

「倉林支社長?
 完璧にセクハラですよね?」

「!!!
 そうだったな。すまない。」

 私の顔はどちらかと言えば派手顔で遊んでいそうとか心ない言葉を掛けられることも多い。

 頭をかいてすまなそうにする彼に今度はこちらが質問を向けた。