「松嶋工場長に「西村さんなら心配することない」って言われて疑っていたけど本当だったなってしみじみ思った。」

 褒められたのか全く分からない。
 何を心配することがないのだろう。

 ……間違いを犯す心配がないって話?

 眉をひそめて倉林支社長の様子を伺うと楽しそうな彼と目が合って笑われた。

「どうして怪訝な顔?」

「何を言いたいのか理解できなくて。」

 目を細めた倉林支社長は優しい表情を浮かべた。
 街灯で照らされた明暗の影を纏う彼の顔はまるでギリシャ彫刻のようだった。

 そんな顔……。
 なんだかズルイ。

 私は何もかもに完敗する思いで顔を俯かせた。
 倉林支社長が初めて見せた優しい表情は胸を高鳴らせるのには十分過ぎて直視することが出来なかった。

「西村さんは心配ないさ。
 例え言い寄られることがあっても困らない。
 って言われた。
 言い寄られて困らないほど魅力不足な人かと正直そっちを想像していたよ。」

 大嶋工場長……。
 たまにすごい爆弾を落としていくのよね…。

 悪戯っぽい顔をしている大嶋工場長が頭の中に浮かんで苦笑した。

「もちろんそういう意味ですよ。
 大嶋工場長にからかわれてるんです。
 そもそも初日に……困ってましたよね?」

 意味深に笑った彼に「さぁ着いた。次は西村さんの車まで送り届けなきゃね」と話をはぐらかされてしまった。