倉林支社長の元に戻ると彼はおじさんに深々と頭を下げた。

「工場から出る有害な排水で……。
 あんたさんにも言いたいことはある。
 別の日に改めて来てくれ。」

 途中まで言いかけて唇をわななかせたおじさんはそれだけ言うと家の中へ入って扉を閉めてしまった。
 固く閉ざされた扉に胸が痛くなった。

 何も出来ないままトボトボと車への道を戻る。
 私はおじさんに言われた言葉が胸に引っかかって上手く倉林支社長を見られなかった。

 不意に何かが飛んできて「やーい。悪魔!」と罵る声が聞こえた。

「………ッ。」

 倉林支社長が声を詰まらせて額を押さえた。
 押さえた手の下から血が流れたのが見えた。

「血、血が!」

 私は急いでハンカチを出して切れたこめかみの辺りを押さえようと手を伸ばした。
 顔をしかめた倉林支社長は「ありがとう」とお礼を口にすると自らそのハンカチで傷口を押さえた。

「あ……。」

 投げた子もショックだったのかもしれない。
 戸惑った顔をして後退りしている。
 手にはまだ数個の小石を握りしめていた。