駐車場に着くと母から着信があったことに気付いて掛け直した。

「あんた。フォレスト工業はどうなの?
 昨日からでしょうが。
 なんにも報告がないけど?」

「報告って別に。
 もういい大人なんだから大丈夫よ。」

「けどねぇ。
 何もフォレスト工業じゃなくてもいいのに。」

「仕事に遅れるから切るね!」

「ちょっと、花音!」

 母は何かと口煩い。
 まだ私を小学生か中学生の子どもだと思っているみたいだ。

 西村花音(にしむらかのん)27歳。
 どこをどう間違えても立派な大人だ。

 東京とか、とにかく地元を出たかったのに地元に残りなさいと母に言われ続けた。
 それならばと交換条件で一人暮らしを許してもらった。

 地元では就職先の選択枠は少なくて銀行なんて近所のおばちゃん達に見合い話を持って来られるのが関の山だし、サービス業全般に同じ悩みを抱えることになりそうだ。

 そうこう考えているうちに森野電機に就職が決まった。