「この和え物、本当に美味しいです。」

 私ってば図太いんだから。
 衝撃を受けたのに、ちゃっかり頂いている。

 そしてお世辞抜きで美味しい。

「そんなに褒められても何も出ないよ。」

「こんなに美味しいお弁当を頂ければ他に何もいらないです。」

 私はみょうがと胡瓜の和え物を食べて感動していた。

 この絶妙な味付け!
 弟子入りしたいくらい。

「みょうがが好きなんて渋いね。
 良かったよ。作って。
 西村さんの好みが分からなくて迷ったんだよ。」

 私の知らないところで私のことを考えて頭を悩ませている支社長を思い浮かべると胸がキュンと高鳴った。

 なんて罪作りな人なんだろう。

 美味しい料理に免じて今日は全て許すけど。

 本当に美味しくて、つい素の自分が出てしまっていた。

「みょうがは食べ過ぎると馬鹿になるってあんまり食べさせてもらえなくて。
 だから余計に恋い焦がれてるのかもしれないです。」

 返事がない倉林支社長に内心しまったと焦った。

 あまりにも美味しい料理に忘れていた。
 この人はあの泣く子も黙る倉林支社長だよ!?

 何がみょうがに恋い焦がれるよ!
 どこまで馬鹿さ加減を露呈させれば気が済むのか……。

 間が空いてから「西村さんは面白いことを言うね」と言われて羞恥心が倍になった気がした。


 料理はどれもこれも絶品で大満足だった。

 ただ、この人の彼女になる人も妻になる人も大変だ。と、余計なお世話な心配をした。