今のうち!

 これを逃したらチャンスがない。
 音を立てないように出来るだけ早く!

 何故か通り過ぎたはずの彼が舞い戻って、その彼と目が合った。

 えぇ、バッチリと。

 私はといえば、そろりと植木の陰から出たところ。
 背中を丸め見つからないように小さくなったなんとも間抜けな姿。

「ニャ、ニャー。」

 苦し紛れに鳴いてみせた。
 本当に間抜け。

「プッ。アハハハハッ。」

 彼はあろうことかお腹を抱えて笑い始めた。

「笑わないでくださいよ。」

 こっちは泣きたいのに。

「これが、笑わ、ずに、、いられるか。」

 普通に話せないほどに笑っている倉林支社長に恥ずかしいやら情けないやら。

 彼の爆笑が落ち着くまで彼の笑い終わり待ちをした。

 なんの時間よ。
 涙まで流している彼を複雑な心持ちで眺めた。

「残業していたことを叱られると思ったんだね。
 叱っているつもりはなかったんだよ。
 どうもこの顔のせいか厳しそうに見えるみたいだ。」

「いえ、実際に厳しかったです。」

 特にノースリーブの指摘の時とか。

 それに今日の都築くんへの態度は私も震え上がりました。
 とは、口には出せない。

 帰りたかった理由は別なんだけどね。