角を曲がって現れたのは思った通り倉林支社長だった。

 離れているとはいえ、目の前の通路を彼が歩いていくのをドクドクと騒がしい心臓を抱えながら通り過ぎるのを待った。
 心臓の音が聞こえて気づかれないかとヒヤヒヤする。

 目の前を颯爽と歩いていく彼をやり過ごすと、彼が帰ってから出て行こうか…と迷っているうちに再び彼が私の前を通っていく。

 早くない!?
 脚が長い人ってコンパスが違うから!?

 完全に出るタイミングを失って、息を潜めるしかなかった。

 守衛さんと何やら話している声が漏れ聞こえる。

「鍵はまだ戻ってないよ。
 いつかのお嬢ちゃんが今日は遅くなるからと借りて行ってなぁ。」

 そうだ!鍵!!

 鍵は私の手の中にあった。

 もう。守衛さんッ!
 その情報提供必要なし!
 個人情報保護法を適用して!!

「西村さんが?」

 怪訝そうな倉林支社長の声色にギクリとする。
 絶対にバレないように帰ろう。
 固く誓って脱出のタイミングを計る。

「見てきます。」

 職場へ戻って探すのだろう。
 去っていく彼が通り過ぎて角を曲がった。