「突然、褒めないでください。
 心臓が止まりそうです。」

 大嶋工場長は元上司。
 気さくな愛妻家で女性に優しい。

 仕事のノウハウは大嶋さんにほとんど教えてもらった言わば師匠みたいな人。

 森野電機は小さな会社だった。
 小さな会社にありがちな社員のほとんどに役職がついていた。

 だから工場長と言っても歳も近くて話しやすかった。
 何より大嶋工場長はいい上司だった。

「突然褒めてもいけないし、突然姿を見せてもいけないのかい?」

 不満げに言いつつも倉林支社長はどこか楽しそうに続けた。

「では、褒める時は「そろそろ褒めますよ〜」と、前置きをして、近づく時は「倉林接近中。倉林接近中」とでも鳴る警報器を西村さんのデスクに置こうか。」

 倉林支社長警報器。

 彼が近づいてくる度に絶妙に似ていない倉林人形がカタカタ動きながら

《倉林接近中。倉林接近中。注意!注意!》

 と、警告してくれる様を頭に思い浮かべて再び吹き出した。

「どうしてあぁいう人形って絶妙な感じで似てないんでしょうね。」

 目を丸くした倉林支社長が髪をかきあげて笑った。

 あ、八重歯がある。
 なんだか可愛い。また意外なんだから。

 後追いで見つかる彼の特徴は意外で、それでいて好印象で。
 何もかも完敗する心持ちになる。

 髪をかきあげる姿だって映画のワンシーンみたいなんだから。

 心囚われないように慌てて目をそらして視線を彷徨わせた。