「帰省ですか?」

「えぇ。」

「彼女と会われるんですか?
 すみません。
 電話が少し聞こえてしまって。」

 目を丸くした彼はそれでも嫌な顔をせずに彼女のことを話してくれた。
 それは聞きたかった、けれど胸が抉られる内容だった。

「いえ。まぁでも元カノってやつです。
 長く友達でいたので付き合っても友達みたいな関係で。
 恋人にはなり切れなかった。」

 そうか。それで……。
 そうだとしても今も連絡を取り合っているのは…邪魔者は俺だったのだ。

 彼は思い出話に花を咲かせている。
 それは俺を容赦なく切り刻んで粉々に打ち砕いてくれた。

「好き過ぎて手を出せなかったんです。
 ダサいですよね。俺。
 それに……経験豊富なあいつに童貞な俺が太刀打ち出来るわけがない。
 そんな情けない理由です。」

 肩を落とす彼に心の声が漏れた。

「今も会うくらいだ。
 今も好きなんでしょう?
 すれ違いがあったかもしれない。」

 本当はこんな風に彼の背中を押すような言葉をかけたくない。
 けれど、それで彼女が幸せになれるのなら。

 結婚したいと訴えていた彼女が彼と結ばれて……。
 想像したくない映像が脳内に流れそうになって頭を振った。

「どうしました?大丈夫ですか?」

 知らないとは言え恋敵に心配されるとはな。

「大丈夫です。少々寝不足で。」

「すみません。喋り過ぎてしまいました。
 お休みになってください。」

 人のいい彼に会釈をして目を閉じた。
 ジクジクと痛む胸も、抉られてヒリヒリする心も、何もかもを忘れてしまいたかった。