そして、あの日。

 彼女が俺の中で大きな存在になりつつあったあの日。
 彼女の元に電話がかかって来た。

 電話は丸聞こえだった。
 彼の話を聞いて、元彼だと聞いて自分の気持ちが決壊した。

 嫉妬で何も見えなくなっていた。

 けれど元彼とは何も始まっていなかった。
 彼女の体がそれを物語っていた。

 だからこそすぐにでも力づくで自分のものにしてしまえばいいって思いが湧かなかったわけじゃない。

 ただ、小さく震える花音が愛おしくて、俺はなんて馬鹿なんだろうと自分を責める気持ちの方が大きくて、これ以上自分の気持ちを押しつけるようなことが出来なかった。

 そして俺の気持ちを聞いて距離を取る彼女の態度を見れば誰を想っているのか明白だ。
 俺はとんだピエロだ。

 初日の俺が断った時の安堵した態度。
 元彼と電話している時の柔和な彼女の表情。
 どれもこれも分かり切ったことだった。

 彼女の中の不確かだったであろう元彼への気持ちを確かなものへと変えさせてしまった。
 自分の気持ちを抑えられなかったばっかりに。

 あんな風に……相手の気持ちを気遣えないほどに俺は、、。

 打ちのめされた俺は彼女に元彼と話し合うように勧め、本社へ出張に出掛けた。
 彼女と行っても良かったのだが、彼女には告げずに一人本社へと向かった。