「フッ。」

「何が楽しいんですか。
 俺、上げられておいて一気に落とされてへこんでるんですからね。」

「あぁ。悪い。
 思い返してみたら私のプライベートの空間に入った女性は一人だけだったなって。」

 え………。

 私を動揺させておいて彼は至って普通の顔で都築くんと会話を続けている。
 こういう時、彼がものすごく恨めしい。

 後で聞いたってはぐらかされちゃうんだから。

「支社長が込み入った話をするなんて珍しいですね。」

「そうか?
 そういえば、西村さん。忘れ物。」

 急に話を振られて現実に引き戻された。

 ダメダメ。
 今は仕事中。

「え?あ、良かったです。
 このペン入社祝いにもらったもので気に入ってて。」

 彼は優しく微笑んでペンを差し出した。

「大事そうにしてから。」

「ありがとうございます。
 どこにあったんですか?
 探してたんですよ。」

「落ちてた。私の部屋に。」

 一瞬、時が止まって一斉にみんなの視線が背中に刺さるのが伝わった。