「はい。いらっしゃい。
 あぁ、倉さん。」

 おじさんが顔をほころばせて出迎えてくれた。

 なんだ。良かった。
 やっぱりここ『だんだん』にも倉林支社長の人柄がきちんと正しく認知されて……。

 ホッとしたのも束の間、おじさんから驚くことを言われた。
 それは嬉しい反面、愕然とするような言葉だった。

「花音ちゃんの上司はさすがだね。
 倉さんは何度も出向いて頭を下げてね。
 レシピを公開する側なのに作って下さいってお願いするなんて今思えばおかしな話だよ。」

 親指を立てて指し示した先には『あまごパスタ』の文字が。

 壁にたくさんのお品書きが貼ってある店内。
 その中でも一際目立つ位置にそれは貼ってあった。

 飲み屋でもどこの飲食店でも出せるように、考案された『あまごパスタ』はレシピが公開されている。

 それは箕浦さんも了承済みで、検討段階から地元の活性化の為に地元の飲食店の全てのお店で作れるようにしようと考えていた。

 けれど、おじさんの言い方では何度も倉林支社長自らがここに足を運んだのだ。

 さっき、私に連れて行って欲しいと言ったのに、一人で来てたなんて!

 大太鼓の時と同じだ。
 やっぱり彼は私がいなくても成し得ただろうと思えて心は沈んでいく。

 彼がここでも受け入れられていて嬉しいはずなのに素直に喜べず不貞腐れている私に崇仁さんは笑う。