「花音にはかっこ悪いところを見られたくなかったし、それに……。」

「それに?」

「大太鼓は男が多い。」

 それは、そうだけど。
 今日も見学者以外に大太鼓をたたく人で女性はいない。

「だから女の私には無理だと?」

「………。
 本当にモテなかったのか、自覚が足りないだけじゃない?」

「え?なんのことですか?」

 不貞腐れたような顔の彼の顔が近づいて、驚く間もなく唇が重ねられた。

「!!」

 一瞬だけ重なった唇はすぐに離されて未だに不貞腐れた顔の彼が顔を背けた。

 いやいや!怒りたいのはこっち!!

「見られたらどうするんですか!!」

 小声で訴えると顔を背けたまま反論された。

「見られて困るの?」

「困るでしょ?」

 振り返った彼が私を引き寄せてキスをした。
 さっきみたいに一瞬触れるだけじゃなくて優しく、けれど次第に深く、甘く。

 体を離した彼は放心状態の私に言葉を残して大太鼓の方へ戻ってしまった。
 彼の残した言葉が火照る顔の私の頭をぐるぐる巡る。

「俺、かなり独占欲が強いみたいだ。
 花音といて初めて知ったよ。」

 彼の言葉を上手く理解できるほど思考回路は正常に戻ってくれない。

 赤くなる顔を押さえて彼を見やると彼はみんなに背中をバシバシたたかれて、何か声をかけられている。
 冷やかされているように見えなくもない。

 見られてない、わけないよ……。