黙っている彼に私は我慢できなくて重ねて言った。

「もしも、……こんな関係になっておいて、もしも私が元彼にまだ気持ちがあると言ったら、また崇仁さんは引くつもりでいるんですか?」

「それは………。」

 口ごもって俯く崇仁さんに憤慨する気持ちでいっぱいになって本音がこぼれた。

「私の……初めての覚悟返して下さいよ。」

 ハッと顔を上げた彼が、手を伸ばして頬にそっと触れてから抱き寄せた。
 その手は微かに震えているように思えた。

「ごめん。……ごめん。」

「謝らないで下さい。
 余計に虚しくなります。」

 私は聞きたくても聞けないのに。

 婚約者の方とはどうするんですか?
 本当に誰とも結婚しないんですか?
 私とは、遊びなんですか?
 好きってlikeの好きですか?
 loveの方ですか?

 どれか一つでも聞いてしまったら夢から醒めてしまう気がして口に出せない。

「聞くべきではなかったね。
 でも、これだけは分かっていて欲しい。
 俺は花音のこと……。」

 抱きしめていた腕を緩めて崇仁さんは私を見つめた。
 その瞳は真っ直ぐに私を見つめている。

「……言葉では言い尽くせないくらいに大切に思ってる。」

「崇仁さん……。」

 私もです。
 その言葉は声に出せなかった。

 こんなにも近くにいるのに、どうしてか彼がいなくなってしまうような不安な気持ちになってギュッとしがみつくように彼の胸に顔をうずめた。