「守衛さんにはいつも遅くまでいるのを大目に見てもらっているんだ。
 図らずもお礼が出来て助かったよ。
 西村さんは気が利くいい娘だね。」

「そんな。
 大したことないので気にしないでください。
 あ、でも、味は保証しますよ。
 安くて美味しいんです。
 倉林支社長にも今日は私がご馳走します。
 あの、私のせいでもあるので。」

 狭いところに2人きりという緊張感に加えて、褒められた気恥ずかしさから余計なことをペラペラと喋った。

 いい娘だなんて……。
 お世辞だって分かってるのに胸がドキドキして落ち着かない。


 職場がある3階について開ボタンを押したまま彼が降りるのを待った。

 降り行く彼から不意に伸びた手が私の頭を数回ポンポンと軽く撫でた。

 え……。

 固まる私に声だけが届く。

「あの店でいつか食べられるといいな。」

 そのままエレベーターを降りてしまった彼の表情は分からなかった。
 けれど、どこか寂しそうな声色に胸がキューッと痛くなった。

 急いで追いかけて彼の背中に向かって言葉を掛けた。