私の同意は特に求めていないようで彼は話を続けた。

「意欲がないと言うのかな。
 惰性で生きているような人間だった。」

 惰性で……なんだか寂しい気持ちになって彼に寄り添うと彼は私の髪を優しく撫でてから続けた。

「けれど母方の田舎は好きでね。
 その田舎に誘致の話が来て飛び乗ったんだ。
 自分から手を挙げてやりたいと言ったことは初めてで周囲も驚いていたよ。」

 そうだったんだ。

 本社で聞いた時は実質、左遷させられたのだと勘違いしていたけれど崇仁さんたっての希望だったのだ。

 前に見せてくれた風景。
 母の田舎が好きで過疎化を止めたかった。
 そう話してくれた彼は嘘ではなかった。

 彼の言葉に心が軽くなって、そして彼への愛おしさが増す思いだった。

「弟の方が野心家で社長に向いている。」

 言われて思い出す同級生の方の倉林。
 少々やんちゃで何にでも意欲的で、しかし子どもながらにどこか世の中を斜めに見ているような人で、崇仁さんとは違った意味で異端児だったように思うけど。

 懐かしい思い出に思いを馳せていると彼かららしくない言葉がこぼれた。

「玉の輿を狙っていたのならゴメンね。
 俺はハズレの方だ。」

 それは本社で聞いた台詞だ。

 らしくないよ。
 私が勝手に作り上げたイメージだとしても。
 嫌味なくらい自信家で完璧な支社長でいて欲しい。

 自虐ネタで笑わせようとしているのなら本当らしくない。