目が覚めたと思えば彼に捕らわれて何度も肌を重ねて、今がいつなのか、朝なのか昼なのかも分からないまどろんだ温もりの中。

 彼は自分のことを話し始めた。
 ミステリアスと言われる彼にとって珍しい行動のように思う。

「俺が社長の息子だというのはさすがに知っているのかな?」

「それは…はい。」

「そう。」

 彼から直接聞かずとも周りが騒ぎ立てているのだからさすがの私でもその程度は存じ上げている。

 僅かに落胆したような崇仁さんは自分の境遇をあまりよく思っていないことが伺えた。

 本社での陰口に、地元の人からの悪魔呼ばわりにボンクラ呼ばわり。
 思い返すだけでも嫌な思いをしていることは想像に難くない。

 けれど慰めの言葉はどんな言葉をかけたところで安っぽく思えて口に出来なかった。

「俺は一般的に思い描く社長の息子とかけ離れているらしくてね。
 社長の息子なのに欲がないらしいんだ。」

 そういうものなのかな。

 高級マンションを二つとか、高級車とか、感覚の違いは感じるんだけどな。
 そうかと思えば自炊していたり。
 私には分からない世界であることには違いなかった。