「俺のこと名前で呼ばないと許さない。」

 こんな情熱をどこに隠していたんだろうって驚くくらい彼は私を見つめて詰問する。

「だって……それは婚約者の方と同じ呼び方で……。」

 目を僅かに見開いた倉林支社長が「やっぱり妬いてるの?花音に妬かれるの嬉しいかも」と微笑んだ。

 どうしてそんなことに……。

「妬いて……なんか………。
 だって彼女の方が倉林支社長とお似合いですし、それにあのクマを知ってるってことは車にも乗せたことが……。」

 至近距離で見つめられ、よく分からないことを口にする私を倉林支社長は微笑んで見つめたまま。

 どうして?
 ずっと私じゃなくて前ばかり見ていたじゃない。
 もう私はあなたの瞳に映らなくなったのではないの?

 そんな疑問が浮かんでは消えるのに、あの過ぎ去った夜の時のように彼は私に甘く囁く。

「それを妬いてるって言うんだよ。
 じゃ俺は倉林支社長で元彼は名前なわけ?」

 不服そうに言われて「それは…ごめんなさい」と謝った。