気持ちに区切りをつけようって、分不相応だからって。
 それなのに彼に見つめられると色んなことが吹き飛んで彼の胸に飛び込んでしまいたくなる。

 何もかもを忘れて「私だけを見てください」って駄々をこねてしまいたくなる。

 彼は真剣な眼差しを向けたまま甘く囁くように声を微かに掠れさせて言った。

「もし俺が、この後誘ったら来てくれる?」

「誘ったらってどこに……。」

 手を取られドキリとすると、その手に口づけされた。

「あの……。倉林支社長?」

 ずるいよ。
 振り払うなんてもう出来ない。

「崇仁っていつになったら呼んでくれるの?」

 色気を漂わせて言う彼に目を伏せて何も言えなくなった。

 名前は……婚約者のあの人が呼んでいる名で呼びたくなかった。