「避けたってそっちが元彼に差し出して、それで婚約者もいるって分かって。
 だから私を元彼に差し出したんだって理解できて。」

 そうだよ。元彼と話し合えって。
 それは暗に、よりを戻した方がいいんじゃない?って突き返されたようなもので……。

「待って待って。
 その順番で合ってるの?」

 自分の頭にクシャリと手を入れた彼が質問を向けた。

「その順番って何の順番ですか?」

 あの日、あの夜以来……ううん。元彼と話し合ったらって言われて以来。
 もうずっとこういう話は避けていて、上司と部下として、仕事の話しかしていなかった。

 だから今回もすぐにクマは受け取られて上司と部下に戻るものだと……。

「花音は……誰に想いを寄せているんだい?」

 花音って……。

 もう呼ばれないと思っていたその名に胸がざわめいた。

 私が、想いを寄せている人?

「それは………。」

 頭から手を離した倉林支社長が私を真っ直ぐに見つめた。
 真剣な眼差しに目がそらせない。