『なんだ。
 まだ竹本さん婚約者のフリしてるのか?
 彼女も懲りないね。
 こっぴどく振られても父親の権力使って山野支社に視察に来るし。』

 婚約者のフリ?
 こっぴどく振られて?

 目を丸くした私を見て「急に電話して悪かったな」と倉林支社長は電話を切った。

 私の頭の中では二人の会話が何度も行ったり来たりして、想像したくないのに勝手に浮かんでくる倉林支社長と婚約者の方が寄り添ってデートする光景と混ざって混乱を招く。

 一緒に行っていないということ??
 そもそも私の考えていたような間柄ではなかったということ??

 倉林支社長は私に向かって静かに言った。

「婚約者なんて親が勝手に決めたことだ。
 私に結婚願望はないのだからね。」

 それは……知っていたけど。

 まだ頭が混乱している私に倉林支社長は詰め寄った。

「もしかして妬いたの?
 俺を避けたのはそのせい?」

 俺って……。
 急に仕事モードじゃなくなった彼に余計に戸惑って口ごもる。