「しかし……。」

 私にこんな風に報告するという、苦渋の選択をしたのは分かる。
 彼の顔はつらそうに歪んでいた。
 きっと彼だって謝ったりしたくなかっただろう。

 工業排水については本社に対策チームが作られ、関連部署と連携を取り開発や設置など急ピッチで進められている。

 けれど本社としてはそこまで。ということだ。

 ホタルに至ってはそこからだ。
 どの辺りに飛んでいたのか、天敵となる外来種はいないか、餌になるカワニナという貝は生息しているか、様々な調査が必要だろう。

 軌道に乗るまでは育てたホタルの幼虫を川に放したり、カワニナが川で減っていればカワニナも育てなければならない。

 その他にもやることは山積しているだろう。

「有志を募りましょう。」

「有志……。」

 窓の外を眺めていた彼の俯き気味だった背中が僅かに伸びた気がした。

 俯くなんてらしくない。
 堂々と嫌味なくらいカッコイイ倉林支社長でいてよ。

「田舎を舐めないでください。」

 倉林支社長はゆっくりと振り返った。
 状況を飲み込めていない彼に笑ってみせた。