見学を言い渡された私は子ども達が帰って静かになった公民館の壁際で指導を受けている倉林支社長を遠くから眺めた。

 真剣な表情の彼に胸が痛くなって丸めた体に顔をうずめた。

「よっ。久しぶり。」

 若い男性に声をかけられて首を傾げた。
 ……誰だっけ?
 まじまじと見つめても思い出せそうにない。

「おいおい。忘れたのか?
 茂兄だよ。茂!」

「あぁ!茂兄!!
 大きくなってて分からなかった。」

 うちの畑の隣にあるお家のお兄ちゃんだ。
 畑作業をする親について行くと遊んでもらえた優しいお兄ちゃん。

「花音は美人になったな。
 ……おっと。俺は練習に戻るかな。」

 懐かしい話をしていたのにそそくさと茂兄は太鼓の方へ戻って行ってしまった。
 茂兄の視線の先にいた人が私の隣に腰を下ろした。

 なんとなく今は彼と話したくなかったのに。

「倉林支社長。もう休憩ですか?」

「いや。……まぁそうだね。
 今日はまだ説明だけで。
 もう帰ろうか。」