「ほら。食べないの?
 無くなっちゃうよ?」

 数個お菓子を手にした天野のおばさんに声をかけられて、曖昧に微笑むと差し出されたお菓子を一つ手にした。

「ありがとうございます。」

「こちらこそ、ありがとねぇ。
 花音ちゃんが来てくれたからあの人折れることが出来たんよ。」

 おばさんの言葉に首を振った。

「私なんて何も……。」

「ううん。最初は「ボンクラは何も分かっとらん。さすが花音ちゃんじゃ。やっぱりここの饅頭じゃて」って喜んでたの。
 今でもお饅頭は喜んで寄合に持って行ってるわ。」

 慰めの言葉は上手く心に響かない。
 お饅頭を喜んでくれていたとしても。

 結局、彼は彼一人でもきっとここまで成し得ただろうと思うとやっぱり心は晴れなかった。

「倉さんが色々と尽力してくれてて、酒蔵の野々山さんも協力を始めたことも聞いててね。
 うちの人もそろそろ折れてもいいと思ってたんよ。
 頑固もんだからなかなか急にはいい顔出来なくて。
 花音ちゃんをダシに使ったんよ。」

 そっか。
 そう思えば少しは私も役立ったのかな。

「元気出しんしゃいね!」と背中をたたかれて微笑んだ。
 こういうところがやっぱり山野だよなぁってそんなことを思って、心がじんわりと温かくなった。