「花音ちゃん。」

「えっ。はい。なんでしょう。」

 僅かに開いた引き戸から呼び止められた。
 おじさんの姿までは見えない。

「ほれ。饅頭じゃのぅて。」

「え?」

「はい。アレですね。またお持ちします。」

 私の代わりに返事をした倉林支社長の横顔をついマジマジと観察してしまった。
 相変わらず彫刻のような顔立ちに思わず目を逸らした。

 彼の顔をジッと見たって答えは出てこないのに、何をしてるのよ!

 自分を叱ってから考えを巡らした。

 アレとは何か。

 何度かお願いに伺っているけれど手土産は毎度、お饅頭だ。
 昔の記憶で確か、ここの銘柄のお饅頭が好きで……。

「花音ちゃんは俺と一緒の田舎もんだ。
 あぁいうハイカラなもんは知らないわなぁ。」

 私の隣からフッと息が漏れたような笑い声が聞こえて再び彼の横顔を見る羽目になった。
 彼は相変わらず綺麗な顔立ちで真っ直ぐ引き戸を見つめるばかり。

 状況は飲み込めないのに見惚れてしまいそうになるから、すぐに目を逸らさないといけない。
 目を逸らしつつも、上手く咀嚼できない思いが頭の中で行ったり来たりする。

 私が、笑われた?