「西村さんは不思議な娘だね。
 今までの私には部下も腫れ物に触るような関係だった。
 それなのに……。」

 クククッと笑う彼はどこか楽しそうだ。

「私に食ってかかって来たのは君が初めてだよ。」

「倉林支社長は食べても美味しくなさそうですよ〜。」

「ハハッ。そうだね。
 間違っても齧らないで欲しいな。」

 いい気分でむにゃむにゃ変なことを口走る私に倉林支社長は優しく頭を撫でた。

「飲み会があっても金だけ出して顔を出さないようにして。
 肩身の狭い飲み会は社名を伏せて。
 私が出席してはすぐにバレてしまう……。」

 私は夢見心地なまま、彼の腕にギュッとしがみついた。

「みんな倉林支社長のこと尊敬してますよ〜。」

 山野支社のみんなは倉林支社長のこと尊敬してる。
 それは本当だ。
 必要以上に恐れていると感じたこともあったけど、言葉の端々に尊敬の念を抱いていることを感じる。

 そのことが彼に少しでも伝わればいいのに。
 本社でのことなんて、彼に少しも伝わらなければいい。

「フフッ。そうかな。ありがとう。
 しっかりしてると思えば可愛らしくて本当に、君って奴は……。」

 すごくいい夢を見たと思う。
 優しく囁く彼は私の頭に優しいキスを落とした。
 それはすごくすごく私のことを甘やかしてずっとこの夢の中にいたい気持ちにさせた。